今回は、20代女性、Tさんのケースを紹介します。
Tさんが最初に相談に来たとき、瞳が暗く濁り、いまにも消えてしまいそうな雰囲気で、私自身もドキドキしながら話を聞き始めました。
母子家庭で育ち、家族から逃げるように上京した彼女。小さい声でポツリと、「生きるのも死ぬのも地獄です」と呟き、静かに現状を語ってくれました。
Tさんは、会話していると相手の心の声が直感的に頭に浮かぶと言います。仕事でもミスを繰り返し、自分がどこかおかしいのでは?と、悩んでいました。
2年後には実家に戻って地元で就職し、母親と和解したTさんに、どんな変化があったのか?
私がやったのは、とにかく話を聞くだけなんですが。
マイノリティな気質をもつ人にとって、素直な感覚を受け止めてもらえることが、なにより大切な癒しにつながるケースが多々あります。
ひとつの例として、Tさんのエピソードを紹介します。
Tさんの悩み「仲裁と心の言葉」
Tさんは、幼いころに両親が離婚し、母子家庭で育ちました。母親は複数の男性と同時に関係をもつことが頻繁にあり、恋人とのケンカも日常茶飯事。
いつも母親と恋人の仲裁をしていたので、「人間はどうせ分かり合えない」と思うようになりました。
相手が心で発した言葉が流れ込んでくる
小学校高学年になると、友達の話を聞いても仲裁する雰囲気を出してしまい、上から目線だと感じ、自分を責めるようになりました。
この仲裁は、大人になっても、頻繁にTさんを苦しめます。
人の話を聞いていると、相手が心のなかで発した「うぜー」という言葉が、頭のなかに勝手に流れ込んでくるので、人間関係を築くのが怖くなってしまいました。
逃げるように上京するも、仕事が続かない
母親から逃げるように上京し、一人暮らしを始めたものの、職場でも人の目が気になってしまい、集中できずミスを連発。
迷惑をかけるのが申し訳なくて、さらに自分を責め、勤務中に涙が出て止まらなくなることも、しばしばありました。

生きるのも死ぬのも地獄。
仕事はやめたくないけど、ミスが多くて続かないんです。
どこかオカシイんだと思って病院にも行きました。診断されたけど、なんか違う気がして…
もう生きるのが、つらい。
Tさんは、自分に対する無力感と、矛盾する内面の扱い方がわかず、途方に暮れていました。
「ずっとお母さんの面倒を見てきたのに、逃げるように上京して申し訳ない。でも、一緒にいると身が持たない。」こんなことも話していました。
素直な感覚を言葉にすること
Tさんの場合は、とにかく彼女の感覚にじっくり耳を傾けることが、大きな変化のキッカケだったように思います。
とくにマイノリティな気質の人は、「感覚を理解してくれる人がいる」という安心感が、なによりも救いになるケースが多々あります。
日常生活で身近な人に打ち明けても共感されないので、本人も自分が感じていることを自覚しにくいんですね。
そして、相手の反応に合わせて表に出すキャラをコントロールするので、さらに自分の感覚に鈍くなる。
こうしたループの渦中にいると、ひとりで考えているだけでは、自分の感覚って気づけないんです。
自分に意識を向ける時間に浸る
TさんにはHSPについて簡単に説明したけど、会っているときのほとんどの時間、気質とは関係ない話ばかりしていました。
家族の話、趣味の話、興味のある心理分野の話。
私はTさんが、人とどのように関わり、自分の感覚をキャッチし、内面で処理しているのか、その世界観にとても好奇心が刺激され、いつもワクワクしながら聞いていました。



ももかさんに話を聞いてもらいながら、徹底的に自己理解をして、色々なことへ興味が湧いて、自分の理解が深まりました。
それと、自分で自分を癒してきたとも思います。
当時の私は、自己理解を促進することを意識していたわけじゃないけど。
あとから振り返ると、この時間こそが、Tさんが飾らない自分に意識を向ける貴重な経験になったのではないかと思います。
それからTさんがコメントしているように、「自分で自分を癒した」という感覚を持つことも、自信につながる大切な要素です。
感覚を言語化する2つのメリット
自分を理解するには、他者が必要です。
言葉にして相手の反応を確認することで、自分の反応も確認できる。質問されると違う角度から観察するキッカケになり、さらに意識の向く先が広がる。
自分を表現する方法は、言語・非言語ありますが、言語化には2つのメリットがあります。
言葉がトリガーになって感覚に気づく
漠然とした感覚と言葉が結びつくと、トリガーになって気づきやすくなります。
たとえばTさんは、人と話しているとき上から目線になっているような感覚を【仲裁】と表現しました。
そうすると、「もしや、いま仲裁が暴れてる?」と気づくだけで、不思議と冷静になれたりするんです。
適切なフォローを受けやすくなる
Tさんの場合は、相手の言葉が頭に流れ込んでくる、という現象は感覚としてもっていたけど、人に説明するのに適切な言葉を持ち合わせていませんでした。
だから仕事中にパニックになっても先輩に説明できず、涙が止まらなくなって、よけいパニックになってしまったんですね。
自分の感覚を言語化しておくと、仕事や人間関係で気持ちを伝えやすくなるので、周りのフォローを適切に受けられるようになります。
Tさんはどうなったか?
瀕死の状態でやってきたTさんは、紆余曲折ありながら、現在も生き延びています。
2年後にアパートを解約して実家に帰り、お母さんと再び暮らすことになりました。
ただ、今度は自己犠牲からのお世話係ではありません。
「小さいころから抱えていた気持ちを全部伝えて、ふたりで話し合って和解した。」と、LINEをくれたとき、私も嬉しくて思わず泣いてしまいました。。。
さらに地元で就職先を見つけて、仕事を始めたそうです。いまも激しくメンタルが落ちることもあるようだけど、懸命に人生を歩んでいます。



もし、つらいことを1人で抱えて苦しいなら、誰かに相談したり、話してみると、救われることもあるんだよ!って言いたいです
表現が先、気持ちは後から
Tさんのように、「相手が言葉にしていないけど、なんとなく考えていることが頭のなかに流れ込んでくる」という感覚は、マイノリティな気質に見られる現象です。(HSPだけでなく、その他の性格タイプでも説明できます)
でも、その感覚は周りの人が話題にしないので、自分だけで気づいて理路整然と説明できるようになるのは、とてもハードルが高いです。
生きやすくなるには、うまく言えない感覚を、うまく言えない前提で表現するのが先です。
どうしたいか、どうしてほしいのか、という気持ちの部分は、後付けでもいいんです。
まずは素直な感覚を言葉にできる空間で自分を見つめ、しっくりくる言い回しを練習すれば、日常生活で相手に合わせて適切に意思表示できるようになります。